2013
12.20

あわてず、あせらず、あきらめず

「あわてず、あせらず、あきらめず」
この言葉は、もともとは、詠み人知らずの古い格言のようです。今年乳がん学会の会長を務められた浜松オンコロジーセンターの渡辺亨先生が、再発・転移がんとの付き合い方ということで、よくお話されている言葉です。とても良い言葉ですので、私もよく患者さんに対して使わせていただいています。

がんが、再発・転移しますと、患者さんとしては、気が気ではありません。このがんが、どんどん進行していって、自分の体がどうにかなってしまうのではないか?命に係わるようなことになってしまうのではないか?手遅れになってしまうのではないか?などと不安になります。このような時に、「あわてず、あせらず、あきらめず」が大事なのです。

早期発見・早期治療が大事、ということは、よく聞く言葉と思います。実際に、早期発見・早期治療が大事な局面というのは、早期がんの状況です。早期がんには、ある程度、早く治療をした方が治療成績が良くなる、という科学的証拠(エビデンス)があるからです。では進行がんではどうか?と言いますと、残念ながら、早期発見・早期治療が進行・再発がんの治療成績を向上させるというエビデンスが存在しませんし、実際、患者さんに、メリットをもたらすことが少ないと考えられているからです。早期がんの治療の目標ががんを治癒させることであるのに対して、再発・進行がんの治療の目標が治癒させることではなく、がんとより良く共存を目指すということからも、早期がんとは違った治療に対する考え方が違います。

これは、進行・再発がんだから、何やってもダメだから、あきらめなさい、という意味ではありません。乳がん、卵巣がんの研究で、術後の検査をやる群とやらない群とで比較してみると、検査を頻繁にやる群の方が、再発が早く見つかり、治療も早く行われているのですが、結果的に生存期間は同じであったというものです。逆に検査をやる群は、治療が早く始められる分だけ、治療が過剰になってしまうという不利益もあります。再発・転移がんの場合でも、抗がん剤は有効ではありますが、あわてて、早く始める必要はない、ということなのです。

また、あわてすぎて、本当は再発でないのに、再発と誤診され、治療を開始されてしまった例なども、時々見かけます。その典型例は、骨シンチによる骨転移の診断です。骨シンチは、がんの転移も見つけてくれますが、骨そしょう症など良性の病期でも陽性と判定されてしまうことがよくあります。こうした骨シンチ検査で、がんでないのに、がんと誤診してしまう偽陽性率は、20%くらいあるとの報告もあります。無症状なのに、骨シンチ陽性だからと、抗がん剤を始められたけど、後になって、実は転移ではなく、骨そしょう症であった例など、自分の患者さんではありませんが、今までに何例も見たことがあります。

このようにがんの再発の診断も慎重に行わなければなりません。検査というと、PET検査という診断能力が高い検査があり、日本でもかなり多くの施設に配置され、かなり広く行われていると思います。PET検査は確かに偽陽性率は低いので、優秀な検査ではありますが、やはり、過剰診断・過剰治療につながる不利益も考慮しなくてはなりません。また、PET-CTをやると、通常のCTの被ばくに加えて、約3.5ミリシーベルトの被ばく量がプラスされますので、何回も受けるとすると被ばく量もばかにはならない数字となります。乳がん術後にPET検査をやることの有用性に関しては、不確かなことが多いため、国内外のガイドラインでは推奨されていません。米国では、PET検査が過剰に行われることに関して、米国臨床腫瘍学会が、「乳がん術後にPET検査をやらないように」と警告を出しているほどなのです。

話はそれましたが、再発・転移がんの治療は、「遅く発見遅く治療でも大丈夫ですよ」、「あわてず、あせらずの治療でも良いのですよ」、ととらえていただけると良いと思います。

再発・転移がんの治療目標で最も大切なことは、「生活の質を保つこと」です。がんを治癒させることが目的ではなく、「より良い共存を目指すこと」が目標です。より良い共存とは何か?というと、患者さん一人一人の生活の質を大事にしながら、より良く生きること、だと思います。生活の質は、個人個人違うものだと思います。仕事が生きがいという人もいれば、趣味の手芸や音楽を大切にしたいという人もいます。旅行が好きだという人もいます。家族・子供のことを大切にしたい、ということばは、最も多くの方がおっしゃることです。

がんが、再発・転移し、抗がん剤が始まりますと、やはり治療が優先されてしまい、本当は大事にしたい生活の質が、なおざりにされることがよくあります。再発してから、ずっと抗がん剤の治療ばかりに費やし、ご自分の大切な時間をつくる余裕もない、などということをよく耳にします。そうなってしまいますと、何のためにつらい抗がん剤を受けているのか、わからなくなります。抗がん剤が中心になってしまいますと、「より良い共存」ではなくて、「質の悪い延命」という暗い寂しい言葉に変わってしまうと思います。

ご自身の大切にしていること、生活面で大事にしたいことなど、抗がん剤治療を考える上で実は大事なことと思います。私は、再発・転移がんの患者さんで、治療選択を考える際には、必ず「あなたの大切にしたいことは何ですか?」とお聞きするようにしています。ご本人の状況次第では、抗がん剤をしないという選択に至ることもありますし、また、患者さんの望む生活の質に合わせた抗がん剤を選択する、ということもあります。それこそ個別化医療になると思います。趣味の音楽を続けたいと希望された患者さんには、しびれの副作用が強いパクリタキセルではなくて、ドセタキセルを選択しました。より良く今後の人生を過ごしていきたいと希望された50代の胃がんの再発の患者さんとは、かなり長い間話し合いを続けた結果、抗がん剤をしない選択を取りました。

あわてず、あせらず、しかもあきらめず、がんから逃げないで、患者さんと一緒に病気と向き合い、患者さんと一緒に最後まであきらめず、がんという病気と闘っていきたいと思うこの頃です。

トラックバックURL
http://nkatsuma.blog.fc2.com/tb.php/639-6404e755
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top