2013
09.13

ピンクリボンキャンペーンに思う

今年もまたピンクリボンキャンペーンの月が近づきました。
私は最近ピンクリボンキャンペーンが始まるとちょっと憂鬱
になります。日本のピンクリボンキャンペーンのほとんどが、
「早期発見早期治療」しか言わないからです。おまけに、
「がんは、早期発見早期治療で治る」「検診していれば大丈夫」
「生活習慣で予防できる」などと続きます。

乳がんのマンモグラフィー検診で科学的に有効性が示されている
対象年齢は、50歳~74歳と限られていますし、最近では、New
England Journal of Medicine誌 http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1206809
に、マンモグラフィー検診で進行がん
は減っておらず、その割に、早期乳がんばかり増えている傾向がある、
すなわち、過剰診断が行われているだけである、などとの報告があり、
検診推進論に、否定的なことも報告されています。

以上のことから、
「検診さえやっておけばよい」というメッセージは誤っていると思います。


あまりに検診ばかり言うので、検診せずがんにかかった患者さんは「検診しなか
った私が悪い」と思うようになりますし、周りの者も「検診しなかった
から悪い」とレッテルを貼るようになります。がんになったことが
悪いことをしたかのように扱われるのは、どうか?と思います。

我々がすべきキャンペーンは「誰もががんになる可能性がある」「がん
になった場合にも、うまく共存可能。がん患者が安心して暮らせる社会
をつくろう」ではないでしょうか?

海外のピンクリボンキャンペーンは「乳がんに対して理解を深める」と
いうキャンペーンであり、あまり「検診」について強調されていません。
またキャンペーンで得られた寄付金は、乳がんの治療研究に主に使われま
す。「海外では検診は既に普及しているので、検診を訴える必要がないか
らだ」とお叱りを受けそうですが、もちろん、日本では検診がすすんでい
ないので、まずは検診を広めることが大事であると思います。

では「検診を広めるためにはどうすればよいか?」考えてみたいと思いま
す。現在、日本で行われている検診を広めようという運動は、ほぼ啓蒙活
動のみです。国民への啓蒙が一番大事なのでしょうか?
確かに啓蒙は大事です。どのピンクリボンキャンペーンを見ても「検診に
行きましょう!」と皆が口々に唱えています。日本のピンクリボンキャン
ペーンが盛んになってきたのは、2000年代に入ってからです。2000年(平
成12年)10月に「あけぼの会」が東京タワーをピンク色にライトアッ
プしたことがきっかけと言われています。その運動の規模は年を追うごと
に急拡大しており、りそな銀行、アストラゼネカ、アテニア化粧品、エイ
ボン・プロダクツ、東京海上日動あんしん生命、ワコール、埼玉りそな銀
行、オーティコンなど、協賛する企業、市民団体は多数存在するようにな
り、大変な盛り上がりを見せています。企業もキャンペーンを奨めること
により、イメージアップを図ることができるので、企業宣伝にもつなげら
れるということなのでしょう。

では、その結果、検診を受ける人が飛躍的に増えたのでしょうか?
乳がん検診率(http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html#06)
を見てみると、2006年から2010年までに、13.41%から22.86%と確かに増
えてはいますが、目標とするがん検診50%以上までにはほど遠い状況です。
がん検診受診者を増やす方策は海外でも色々取り組まれていますが、最も
効果的な方法は、検診台帳を作り受診しなかった方へ再受診を促す「コー
ル・リコール法」であるとされています。

米国CDC(アメリカ疾病予防管理センター)
http://www.thecommunityguide.org/cancer/screening/client-oriented/index.html
によると、28の研究がそれを証明しているといいます。受診者に対する
メリット(検診クーポン券などの発行)や、マスメディアによる啓蒙活動
は検診数を増やすというエビデンスは不十分と指摘しています。

実際に、厚生労働省「がん検診事業の評価に関する委員会」が平成20年
3月に取りまとめた報告書「今後の我が国におけるがん検診事業評価の在
り方について」
(http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html#06 )
を読んでみましても、

受診率向上に向けた取組について「現在、郵送等に
よる個別の受診勧奨を一部のがん検診対象者に行っている市町村は少なく
ないが、検診台帳を整備した上で未受診者への再勧奨を実施している市町
村はほとんどない。がん検診をより効果あるものとするためには、初回受
診者の掘り起こしが重要であり、そのためにも検診台帳を整備した上で個
別の受診勧奨を行うことは必須である」と記載しており、コール・リコー
ル法を勧めています。

メタボ検診を市区町村で実施していますので、メタボ検診と同様に住民台帳か
らコール・リコール法を実行すればよいのです。実際のところ、コール・リコ
ール法を日本で実行できていない要因としては、検診を市区町村にまかせてし
まっているため、担当者が理解していないことが一つ要因としてあげられます。
また、検診には、精度管理が必要となってきますので、受診率が向上すると、
精度管理をする人件費などさらなる費用がかかるため、市区町村では、そこま
でやる気がないといったところが本音のようです。このあたりをつついていか
ないと、日本でがん検診率をこれ以上増やすことは到底不可能と思います。

近年、韓国でも検診台帳を使ったコール・リコール法で、乳がん検診率45.8%
を達成し(http://ganjoho.jp/data/professional/statistics/backnumber/2009/fig21.pdf)
日本は明らかに、がん検診後進国になってしまっています。

何も考えず、「ただ検診を」という、マスメディイァのコマーシャリズムに
のっかった情緒的な検診啓蒙活動ではなく、科学的・論理的に正しい検診と
は何か?、我々は何をすべきか?、をしっかりと冷静に議論し、実行してい
くようにしたいものです。
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dot 2013.09.16 00:14 | 編集
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dot 2013.09.16 11:15 | 編集
ご無沙汰しております。
以前、母の原発性腹膜癌について先生にお聞きした者です。
手術後の抗がん剤もスタートし、おかげ様で腫瘍マーカーも10まで下がることができました。質問に答えていただき、本当にありがとうございました。まだまだ不安な時もありますが、これからも落ち着いてサポートしていきたいと思います。

今回の先生のピンクリボンキャンペーンについてのご意見を読んで、本当に先生が前向きに、そして患者のことを一番に考えてくださっている事を感じ感激致しました。癌になると、患者も家族も不安と後悔と絶望を味わい悩みます。そんな時に、『癌との共存』という切り口でお話していただけたら心がふと軽くなると思います。キャンペーンのあり方、考えさせられました。
牧子dot 2013.09.19 22:51 | 編集
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