2013
05.05

乳がん術後の検査やりますか?

 患者さんと、手術後、抗がん剤も終わり、今後のことを話し合っていく際に、検査をどうするのか?ということについてはいつもちょっとした議論になります。

皆さんは、もうご存じとは思いますが、米国臨床腫瘍学会(ASCO)や、日本乳癌学会のガイドラインでも、定期外来受診を術後3年までは、3~6ヶ月ごと、術後4~5年は6~12ヶ月ごと、5年以降は、年1回がすすめられています。また、検査としては、年に1度のマンモグラフィはすすめられていますが、それ以外の、腫瘍マーカーの採血や、CT・エコー・レントゲン・骨シンチなどはルーチンで行うことはすすめられていません。最近、ASCOは、やってはいけない5つのリスト(J Clin Oncol. 2012; 30(14):1715-24  http://www.asco.org/sites/default/files/5things12factsheet.pdf )として、

1. PS3-4で、前治療に効果が得られず、積極治療を有効とするエビデンスがなく、臨床試験への候補にならないような固形がん患者に対する積極的治療をすべきでない (補足:PS3-4というのは、一日のうち半分以上寝ているもしくは、寝たきり状態の人のことを言います。)
2. 転移のリスクが低い早期前立腺がん患者に、PET、CT、骨シンチの検査をすべきでない
3. 転移のリスクが低い早期乳がん患者に、PET、CT、骨シンチの検査をすべきでない
4. 乳がん術後で症状のない患者に、PET、CT、骨シンチ、腫瘍マーカーの検査を再発検索にすべきでない
5. 発熱性好中球減少症のリスクが20%未満患者へのG-CSFの投与をすべきでない (補足:G-CSFと白血球を増やす注射剤のことです。乳がんの化学療法で、発熱性好中球減少症のリスクが20%以上の化学療法レジメント言いますと、TAC:ドセタキセル、アドリアマイシン、シクロフォスファミドや、TC:ドセタキセル、シクロフォスファミドのようなレジメンに限られます)

という5つのリストを出しました。これは、実際には、米国の臨床現場でよくというか、過剰に行われており、患者さんの利益にならないことであるので、このようなものを出して警告しているわけです。日本でもそうですが、再発チェックのために、PET検診が良いなどと宣伝しているクリニックなどもありますが、これは患者の利益というよりも、クリニックの収益のためにやっているのではないかと思えてなりません。

 やはり、術後ですと、今後の再発が不安であり、定期検査によって、早く再発を見つけて、早く治療した方がよいのではないか、ということは誰しも考えることと思われますが、画像診断や腫瘍マーカーで、再発を早く見つけることが、治療効果に差をもたらすことはなく、その後の予後に対しては、ほとんど影響はしないという研究結果がいくつも報告されています。逆に、こうした画像診断を頻繁に行うことは、偽陽性の問題が出てきます。例えば、骨シンチという検査は、感度が良いのですが、偽陽性が多い検査としては有名です。

 実際の話ですが、ある患者さんが、乳がんの術後に、年に1度定期的に骨シンチをやり、3年目にして、腰椎に1ヵ所転移の疑いがありました。腫瘍マーカーも少し増えており、主治医は、骨転移と診断し、化学療法やホルモン療法をやりましたが、骨シンチでの転移と思われる集積(転移の疑いの部分が濃く染まって写ること)がよくなりませんでした。1年くらいしてから、私のところに紹介になり、もう一度検査をやりましたが、脊椎MRIをやり、放射線読影医の診断では、転移というよりも変性性の変化である、ということでした。経過から総合して考えますと、乳がんの転移ではないと診断しました。このように骨シンチという検査は、「がんの転移」がないのに、検査結果「陽性」と判定してしまうと偽陽性が多い検査ですので、結果をうのみにすることは危険なのです。腫瘍マーカーにも偽陽性が多いので注意が必要です。やはりこれは残念なことですが、腫瘍マーカーだけでがんの再発と診断し、抗がん剤をやってしまわれた例を時々見うけすることがあります。腫瘍マーカーの解釈には十分な注意が必要です。もう一つ追加して言いますと、抗がん剤の効果判定を腫瘍マーカーだけで判断することはやめたほうがよいです。卵巣がんのCA125や前立腺がんのPSAという腫瘍マーカーは、信頼性が高く、画像診断をしなくても、腫瘍マーカーだけで効果判定をしてよい、という国際的な基準もつくられているのですが、乳がんによく使われるCEA,CA15-3,ST439などは、信頼性は低いので、腫瘍マーカーだけでは、抗がん剤の効果判定に使うことができません。あくまでも画像診断の補助的に使うと考えてよいです。

 話は飛びましたが、術後の検査を私が一切していないのか?と言いますと、「すべての患者さんに定期的にやるということは、やっていませんし、勧めません」ということです。やはり腋窩リンパ節転移が多い患者さんなどの再発のリスクが高い患者さんには、患者さんの要望にも応じながら、画像診断をすることがあります。大事なことは、定期的な外来受診の際に、適格な問診・身体所見をしっかりやることと思います。問診や身体所見をきっかけにして、再発が見つかることもよくあります。長く続く腰痛や、だるさがとれない、などの症状で、骨転移や肝転移がわかることもあります。患者さんは、ちょっとしたことでも、すぐにがんの転移と思ってしまうことが多いようですが、がんの転移を疑う症状としては、「持続する以上症状、何日経ってもよくならない症状」の場合には、転移を疑い、画像診断の検査などを行います。

 このようなお話を患者さんにはいつもお話するのですが、「それでも不安なので、やはり定期的に検査をしてほしい」という患者さんは少なくありません。実際に、画像診断をやり、結果が出るまでは、1週間以上かかることが多いです。ある患者さんは、「画像診断をやり、検査結果を説明する日まで、毎日再発だったらどうしよう、自分は再発に違いない」などと1週間悩みに悩んで、私のところに結果を聞きに来た時には、結果を話す前から「先生、わかっています。もう覚悟しています。私は再発でしょう?」と言われました。実際には、再発はなかったのですが、その方がその患者さんはショックだったようで、「な~~んだ、これほど覚悟してきたのに」という感じでした。その患者さんは、「検査の度にこれでは体がもちません」ということで、改めて、再発チェックのための検査の意義をお話すると、「再発を早く見つけても、後から見つけても、手遅れになるということはなく、治療の効果にも差がなくて、生存期間が同じだったら、再発を早くみつけて余計な抗がん剤治療を受けるだけ損ですよね」と理解してくれました。検査をしたから、必ずしも安心にはつながらず、むしろQOLを落としてしまうこともある、ということだと思いました。

 術後の検査をどうするのか?ということは患者さんにとっては、大変関心の高いことと思いますが、単に定期的に検査をするということには、不利益もあるということ、検査をする意味についても、知っていただきたいと思い書いてみました。

トラックバックURL
http://nkatsuma.blog.fc2.com/tb.php/543-a5890027
トラックバック
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2013.05.05 15:52 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2013.05.05 16:52 | 編集
いつもツイッター、読ませていただいています。
優しいお気持ちが伝わってきて、感謝の気持ちで読ませていただいております。
今日もツイッターからこちらへ来ました。

私は9年前に乳がんの診断を受け、その後2、3年の間は、年に1回位の間隔でCT、MRI、骨シンチの検査を自己申告で(先生、そろそろ検査受けたいのですが、という感じで)受けてきました。

でも、何年か前から主治医が、「最近は、積極的にはそういう検査はしない傾向なんですよ。早く見つけても、症状がでてからでも、余命に違いがないという報告があがっているのですよ。」とおっしゃるので、そんなものかなあと内心合点がいかないながらも、検査を受けていません。

でも、患者の心情としては、早期発見のほうがいいのではないか、同病の仲間は検査を受けているのか、などと、どうしても納得できない気持ちや不安な気持ちで過ごしてきました。

肺や肝臓への転移の場合、早期発見なら手術で切除できるのではないか、そうすれば元気で過ごせる時間が伸びるのではないかと思うのですが、違うのでしょうか。

まとまらない内容で申し訳ありません。 ずっとスッキリしないまま何年も過ごしてきましたので、教えていただけたら、とてもうれしいです。

ともママdot 2013.05.06 11:38 | 編集
コメントありがとうございます。
お返事が遅れまして、申し訳ございません。
大腸がんの肝転移や肺転移は手術が有効なことがありますが
乳がんの肝転移や肺転移は手術があまり有効ではありません。手術をしても、すぐにまた転移をしてしまうからです。乳がんは薬物療法が有効なことが多いので、転移をした場合は、やはり薬物療法が中心になります。そのため、検査をルーチンにすることが勧められていないのです。
勝俣範之dot 2013.05.31 10:23 | 編集
お忙しい中、お返事ありがとうございました。
そうなのですか。。。残念なことです。

でも、検査の結果待ちで不安な日々が少なくなって幸せだと思うことにします。
ともママdot 2013.05.31 18:04 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2013.07.27 18:50 | 編集
ご質問ありがとうございます。
一般的には、やはり定期的なCTや血液検査は積極的にすすめられるものではありません。
一般のクリニックに診てもらうことが不安でしたら、乳腺クリニックがよいと思います。がん拠点病院などでも、術後の抗がん剤が終わったら、近隣の乳腺クリニックに紹介して、そちらでフォローしてもらい、年に1度くらいの通院にしているところも多いです。
そのようなことを相談してみてはいかがでしょうか。
勝俣範之dot 2013.08.09 13:23 | 編集
勝俣先生 先日PET CT検査を受けました。
内臓転移を見るためでした。
お陰さまで 影は無く一安心したのですが 骨転移にも集積をしませんでした。

先生 これは何か意味があるのでしょうか?

担当医は硬化している状態 不活性化していると思っても良いのではという判断をされて 「今使っているランマークがこれから副作用が強く出てくるようになるので やめたほうが良いのではないか。」という選択肢を出してこられました。

1集積しない骨転移の意味は?
2色々な手段での画像診断は 活性不活性などできるのでしょうか?

教えてください。
nonnodot 2013.09.24 09:43 | 編集
お問い合わせありがとうございます。

PETで集積しないということは、がんの状態が相当に落ち着いているということと思われます。
おそらくは、骨シンチで集積があったのだと思いますが、PETは以前にやっていますでしょうか?骨シンチは、特異度が低い、すなわち、がん以外、例えば、変形性の変化でも集積があったりしますので注意が必要です。
いずれにせよ、骨転移が落ち着いているのであれば、ランマークやゾメタなどは一旦やめてもよいと思います。
勝俣範之dot 2013.09.25 11:41 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2013.11.26 10:46 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2014.04.24 17:02 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top