2012
09.21

腫瘍内科医のプロフェッショナリズムとは

腫瘍内科医と呼ばれる職種がだんだん認知されるようになってきていることは喜ばしいことですが、我々腫瘍内科医のプロフェッショナリズムはどこにあるのか?ということを真剣に議論してほしいと思っています。

腫瘍内科医のプロフェッショナリズムとは

1.抗がん剤の専門家であること
2.がん診療のナビゲーターであること
3. 患者さんを大切にすること

この3つでありますが、この3つは、Evidence-based Medicineの3要素、すなわち

1. Evidence(医学的知識) 抗がん剤の専門科として、抗がん剤のエビデンスについて精通している
2. Clinical expertise (専門性) チーム医療のコーディネーターができること(抗がん剤だけでなく、手術や放射線治療、緩和療法についてもよく理解していて、患者さんが適切な医療を受けられるようにナビゲートする)
3. Patient value (患者さんの価値観) 患者さんを大切にすること

を基にしたものでありますが、


この中で最も大切なものは、

3.の患者さんを大切にすること、すなわち、患者さんという価値ある一人の人を大切に想い、関心を寄せ、病気だけでなく、その人の人生に対して、共に考え、悩み、支えていく医師であること

と思います。

この3番目の要素が欠けている医師は、いくら1.2に優れている立派な医師であったとしても、全く意味がありません。

患者さんが苦しんでいるのに、その気持ちに共感ができず、抗がん剤だけをやっていく冷たい医師にはなってほしいとは、誰も考えないと思います。

これからの腫瘍内科医の教育を考えていく上で、1.2だけでなく、3の患者さんを大切にし、どうやって支えていくのか?ということを真剣に考えられる医師を育てていくことが最も大切であると思うのです。

現在の腫瘍内科教育では、まだ3.の要素を教育にしっかりと取り入れられていないのが現状です。

それが、どれだけ教育されたのか、成果があがったのか、目に見えて評価できるものでないからです。

この3つのプロフェッショナリズムを若い医師に伝授していくことが、私の使命と思っていますので、今後も続けていきたいと思っています。

最後に、内科医への道として、寄稿した医学エッセイを紹介します。

「余命1ヶ月の花嫁の奇跡」
http://medicalfinder.jp/ejournal/1103100029.html?

末期がん患者さんを題材にした「余命1ヶ月の花嫁」という映画が数年前、話題になったことは記憶にまだ新しいことと思います。あの映画を見て、とても残念だったのは、映画の中で医師が出てくることはほとんどなく、医師が「余命1ヶ月」と言い放つ冷たい医師像のみとしてしか描かれていなかったことです。

腫瘍内科医である我々は、抗がん剤の専門家と称されますが、ともすると、「患者を苦しめる冷たい医者」と誤解されてしまうことが多いのです。腫瘍内科医のプロフェッショナリズムとして大切なことは、「エビデンスばかりをふりかざす冷たい医者ではなく、常に患者の味方であり、患者のためにどのような医療が適切なのかを真剣に考え実践する医者になること(がん診療レジデントマニュアル第5版序文より)」、であると思います。

腫瘍内科医が担当するのは、主に進行・再発期のがん患者さんであり、多くの場合には、治癒は望めません。抗がん剤をやるのも、患者さんの生活の質を大切にしてこそ、抗がん剤の延命効果も意味あるものになってきます。生活の質を考えない抗がん剤治療は、それこそ「患者さんを苦しめる」だけになります。

20代の卵巣がん患者さんのエピソードを紹介します。その患者さんは、初回治療として、手術を行い、術後、腫瘍内科で、化学療法を行いましたが、化学療法終了後、わずか1ヶ月で腹膜播種として再発し、腹水が貯留し、腹膜播種によると思われる腸閉塞を起こし入院となりました。今後の化学療法を含めた積極的治療はとても無理な状況でした。

患者さんご本人、ご家族から、何とか化学療法ができないかと懇願されましたが、「化学療法をすることは、今後の生活の質を著しく低下させることになるし、延命させるどころか、重症な感染症を起こし命を縮める恐れもある」、と長時間かけてお話しし、何とか納得していただきました。「今後大切にしたいことは?」とお聞きすると、「彼と結婚したい」と言うのです。状況的に考えると、今後退院は不可能、長くもっても1ヶ月は生きられないという状況でありましたが、彼も状況をよく理解してくれて、「仮」の形にはなりますが、「結婚式」を行うこととなりました。

正に映画の「余命1ヶ月の花嫁」と同じ状況になったのです。当初は、積極的治療ができないということになり、本人、ご家族ともに、かなり抑うつ的な状況となり、精神科チームにもコンサルトするような状況でしたが、目標を持つことができたせいか、日に日に元気になっていきました。

医療スタッフ側でも、式に向けて色々と準備をし、腸閉塞で食事ができない状況でしたが、式の間だけ点滴を止めるようにしました。結婚式には、医師2名(私とレジデント)、看護師1名、臨床心理士1名の総勢5名が付き添いとして出席しました。何とか無事に式を終え、病院に戻って来ることができました。その後も、積極的治療はしないまま、支持療法のみを行っていましたが、何と病状は好転し、腸閉塞が改善し、腹水も減少してきました。おまけに腫瘍マーカーも減少してきました。

食事も、軟らかいものなら飲食ができるようになり、点滴がはずれ、退院はとても無理と思われる状況でしたが、結婚式の数週間後退院することができたのです。彼女は、結局、3ヶ月後に最終的にはホスピスで亡くなりましたが、退院後、わずかな間でしたが、自宅で過ごすことができ、小旅行などもでき、彼女なりの生き方ができたのではないかと思います。

長い間医者をやっていると、ある意味医師というものは、エビデンスにとらわれ、客観的、機械的にしか、物事を考えられなくなるような気がします。この患者さんの経験は、関わった医療者の間では、「余命1ヶ月の花嫁の奇跡」と呼んでいますが、皆の心に希望を与えてくれました。医学的にはどう考えても、1ヶ月ももたない状況であったのに対して、3ヶ月も延長することができたのは、彼女の生命力というか、人間のはかり知れない不思議な力を見たような気がします。

彼女の経験は、我々に、まだまだ医学なんてものは、わかっていることはほんのわずかでしかなくて、我々医療者は患者さんのお手伝いをさせていただいているのにすぎない、と謙虚な気持ちにさせてくれました。そして、どんな状況になっても決してあきらめてはいけない、希望はなくなることがない、ということを教えてくれたように思うのです。



トラックバックURL
http://nkatsuma.blog.fc2.com/tb.php/455-1719f6ec
トラックバック
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2012.11.10 02:33 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top