2013
05.31

メディアのがん情報について思うこと

 今日も、週刊誌でがんの特集をやっているのを目にしました。年間70万人ががんになり、2人に1人ががんになるという正に、がんは国民病ですので、関心があるのはわかります。

ただ、大変に残念であるのが、日本のメディアがまだまだ非常に伝え方が成熟していないというか、非常にレベルが低いものでしかないことが残念なことです。

我々がん専門医は、がん診療の専門ではあり、患者さんを診察することのプロでありますが、情報を伝えることはプロではありません。情報のプロであるメディアは、真実の情報をしっかりと患者さん、国民に伝えてほしい、とつくづく思うものです。

週刊誌やテレビでのがん情報の特徴はというと
1. がん治療の最前線について
2. がんを克服した人たちの紹介
この二点につきます。

上記の情報は、一般の国民・患者さんたちにとって、とても興味深いものであり、皆が聞きたい、目にしたいと思いますから、テレビの視聴率や、週刊誌の売り上げを上げるのにはとても好都合であります。

では実際はどうか?というと、
1. がん最前線の治療はまだまだ研究段階のものであり、実用段階に入っていないものがほとんであったり
2. がんを克服した人といっても、非常にまれな状況の人の例を紹介しているだけにすぎなくて、現実はもっと厳しい状況であるのです。

つまり、テレビや週刊誌の情報は、夢や期待のあることばかり言っていて、ちっとも現実を直面し、現実にもっと向き合おうとしていないのです。現実からかけ離れたような情報しか報道していないのです。実際に、がんにかかると患者さんたちは、理想と現実のギャップに苦しむことになります。このような情報の報道の仕方では、実際にがんになった患者さんを惑わすばかりです。

がんを治すということは、もちろん大事なことですが、まだまだがんを完全に治すということは難しいです。現実には、治るがん患者さんというのは、約半数(50%)であり、約半数の患者さんは治らないのです。

ただ、治らない=(イコール)死に直結するものではありません。がんと共存しながら、長く生きていくことができる時代になってきています。これからのがん医療で大事なことは、「がんを持ちながら、どうやって生きていくか?」ということだと思います。このような情報は大変有益な情報となると思います。

テレビ・週刊誌で流れるのは、がん克服した人たち、つまり、がん治療が終わった人の話ばかりです。これらは実際の患者さんには役に立ちません。「がんを持ちながら、生きている、闘っている」患者さんの生き方を紹介してほしいと思います。

キャンディーズのスーちゃんは、乳がんになり、再発をしましたが、再発をし、治療しながらも、10年以上も仕事を続けていました。がんと闘いながらの仕事はとても大変だろうと思われますが、がんと闘いながらのスーちゃんの生き方は、多くの患者さんに希望を与えてくれたのではないでしょうか。しかし、ご本人が隠していたということもありますが、どのようにがんと闘ってきたか?ということは、一切報道されていません。メディアで報道されたのは、亡くなる3週間前の息も絶え絶えでお話されたスーちゃんの声だけでした。これだけだと、「がんは怖い病気、死んでしまう悲しい病気」だけのイメージしか伝えられません。

これだけ、「がんを克服した人たち」ばかり紹介されると、「がんを克服していない人」は負けた人であり、何か悪い人であるかのように思ってしまいます。現在の日本の状況は、がんを持ち、闘っていることを公表できにくい世の中になってしまっているのではないでしょうか。

がんで亡くなった芸能人の方もたくさんいますが、亡くなった方たちは、どうやってがんと闘っていったかということがほとんど報道されません。私も好きなミュージシャンの忌野清志郎は喉頭がんで亡くなりましたが、亡くなるまでの闘い方などはほとんど報道されていません。彼だから、彼らしくがんと闘ったのだろうと想像します。キヨシローが、ホスピスで、「イェ~、ホスピスに入ったけど、まだ生きてるぜ~、頑張っているぜ~、」とか言っている姿など見たかったです。

メディアの皆さんにお願いしたいことは、現実味のない虚像の最新がん治療の紹介でなく、がん治療が終わった克服したという人の紹介だけでなく、もっと現実に目を向けた、がんと正面から向き合った治療のやり方、がんと正に闘っている人たちの紹介・報道をしてほしいと思います。

がんを持ち、闘っている人は、負けた人ではありません。この人たちこそもっと社会から大切にされ、注目され、尊敬されるべき人たちであると思います。そのような社会にするのが、成熟した社会であると思うのです。


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