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2012
12.20

NHKスペシャルがんワクチンに対するコメント 続き

NHKスペシャルがんワクチンに対するコメントに対するさまざまなコメントをいただきました。ありがとうございました。

私のコメントで誤解をしていただきたくないことは、今回のがんワクチンの開発に携わった研究者の先生方を非難するものでは決してない、ということです。これまで、膨大な量の基礎研究、臨床研究に携わってきた先生方には、心から敬意を表します。また、副作用の少ない抗がん剤の開発は、我々臨床医にとっても夢の治療薬であり、がんワクチンの開発に期待する一人であり、応援する者の一人です。これまでにも、希望する患者さんには、その適格規準を厳密に判断し紹介してまいりました。

私も基礎研究にはほんの少ししか携わっていませんが、ここ15年以上もの間、臨床研究に携わってきました。私の研究対象とするがんは、乳がん、婦人科がんが主であります。特に婦人科がんは、比較的稀少疾患であるため、研究費の獲得も困難であり、製薬企業も治験をやってくれないことから、海外とのギャップである「ドラッグ・ラグ」に長年悩まされてきました。ですので、少ない資金で臨床研究をやっていくことがどれほど大変であるのか、身をもって知る者であります。

ただ臨床研究というものは、やはり患者さんを対象とした実験であり、まだ効果の確認されていない治療を患者さんに試すのには、最大限に患者さんの不利益にならないように配慮することが大切です。不容易に臨床試験に入ることを煽ったり、臨床試験に同意しなかった患者さんを不当に扱ったりすることは、研究者は肝に銘じて行ってはいけないことと思います。

特に、第三相試験、ランダム化比較試験の説明は大変難しいものですが、患者さんに、臨床試験の「リスクとベネフィット(利益と不利益)」について、きちんと説明され、理解していただかなくてはなりません。つまり、標準治療(プラセボを含む)または、新治療のどちらかにランダムに割り付けられること、標準治療群(プラセボを含む)に割り付けられたとしても決して不利益はなることはないこと、新治療に割り付けられたとしても効果が全ての患者さんに認められるわけではなくて、結局は有効性もない可能性があること、現時点ではどちらの群に割り付けられたとしても不利益はないこと、などが適切に説明され、それに同意した患者さんのみが臨床試験に入ることが可能となります。

つまり、「新治療の効果に期待があるから勧める」のではなくて、「新治療に期待はあるが、まだ有効性が確かめられていないので、それを確かにするために臨床試験をしなければならない」、「新治療の不確かさ(Uncertainty)」を研究者もよく理解し、患者さんもそれを理解していただいた上に臨床研究を行うことが可能となります。

メディアもまた臨床試験に対しては、ただ期待を煽るような報道ではなくて、以上に述べたような、「臨床試験がなぜ必要なのか?」「臨床試験のリスクとベネフィット」「新治療の不確かさ(Uncertainty)」についての理解を促すような報道にしてほしかったと思います。

日本では、まだ臨床試験に対する啓蒙が足りないと指摘されます。
不容易に期待だけを煽ることは、期待に添えなかった時には、返って落胆させることにもなります。臨床試験は必ず成功するとは限らないからです。これまでに何百何千という抗がん剤が開発されましたが、新規化合物の有効性が確立され承認される確率は、1/10,000ととてつもなく低い確率なのです(米国会計検査院レポート“New Drug Development”November 2006)。それだけ有効性のある治療を開発するのが難しいのです。

基礎研究で有効性が期待され、臨床研究に移行し、臨床第一・二相試験で非常に有効性が期待されていても、第三相試験で無効と判定される薬剤・治療はたくさんあるのです。これまでさまざまな臨床試験に携わってきましたが、成功した臨床試験はほんの一部なのです。ですから我々は期待を煽るのではなく、淡々と臨床試験をすすめていくことが大切と思います。

臨床試験の超先進国である米国でも、全米の全がん患者の3%しか臨床試験に登録されていない(JNCI 80:884, 1988)ことや、米国での臨床試験の同意率は10-30%と決して高くない(Cancer 74:2676, 1994)と報告されています。もっと臨床試験がすすむようにと、国をあげて取り組んでいるのが、米国なのです。

臨床試験を国民・患者さんにより良く理解していただくことが、より臨床試験を推進することができるようになるという思いからコメントさせていただきました。
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